『ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅』はスクウェア・エニックス/トーセが開発、スクウェア・エニックスがNintendo Switch向けに発売したドラゴンクエストモンスターズシリーズの最新作。
本作のシナリオは≪日本のエンタメ作品のストーリー水準を向上させる≫を企業理念として掲げた「株式会社ストーリーノート」が全般を担当している。DQ7から10のバージョン1までのシナリオを担当した人物が代表を務め、社員が書いたストーリーのディレクションも今のところ一人で行っているらしい。
しかし実際にクリア後のストーリーまで完走してみると、どっちかというと「日本のエンタメ作品のストーリー水準を終わらせる気か?」という内容だった。ストーリー展開が意味不明で、キャラクターも全員気が狂っている。あまりにもヤバいので、記憶が新しいうちに書き残しておこうと今回は思い立った。
目次
ゲーム概要
本作の主人公は『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』にラスボスとして登場した魔族のピサロ。父である魔王に魔物を攻撃できなくなる呪いをかけられたピサロは、魔物とともに戦うモンスターマスターとして、エルフの少女・ロザリーとさまざまな魔界へと足を踏み入れていく。ドラクエ4本編とはパラレルという設定で「あったかもしれない物語」が繰り広げられる。
不安な体験版
体験版ではピサロがモンスターマスターになり、エンドールでロザリーを助け、2つ目の魔界を冒険する途中までがプレイできる。ちなみに、製品版では最初に意味のわからないムービーが追加されている。
エンドール闘技場で見世物にされていたところを助けられたロザリーは(正確には闘技場からは自分で逃げ出す)ピサロの家に家事手伝いとして押しかける。その際にロザリーが変な方言で話すが、この方言は今後のゲーム中に2度と出てこない。
エルフは呪いを解くのが得意らしく、ピサロの「魔物を攻撃できない呪い」を解いてもらうために一緒に生活することになる。この後、ロザリーヒルに一瞬で塔が建ってロザリーが押し込まれ、本編と無理やり辻褄を合わせるのが体験版の見所。ここで出てきた「エルフは呪いを解くのが得意」「ロザリーが一緒に暮らし始めたのはピサロの呪いを解くため」という設定は忘れていい、もう出てこないから。
説得力に欠ける展開・急に出てくる設定
このゲームは新しいトラベライトを手に入れて新しい魔界へ進み、小さな事件を解決のサイクルで進行する。たまに人間界に戻った時にもイベントが起こる。魔界に降り立った時にロザリーがコメント、拠点に立ち寄ってイベント(無い時もある)、ダンジョンでボス戦というソーシャルゲームチックでコンパクトな構成になっており、話の展開が急だったり虚無だったりしがち。
ピサロはドラクエらしく無言系主人公なのだが、いつの間にか人間を滅ぼすことに決めていたり、無駄に決断力だけあるため共感し辛い。さっき会ったばっかりの自称弟と今会ったばかりのじげんりゅうどっちを信じるかと言われてじげんりゅうを信じてみたり、そのあとはやっぱり弟の言う通りにじげんりゅうを倒してみたり、キャラクターの行動に動機がなさすぎる。
ロザリーは人間界では塔に閉じこもっているが、魔界に行く時は一緒についてくる。メインストーリーで「誰かピサロ様を止めて……」とめそめそしている時も、魔界には一緒にくる。ちゃんと話し合えや。
エビルプリーストと戦う際に「今までお前達が倒してきたゴーレムはエルフを変化させたものだ!」と、とってつけたような胸糞設定を語ってくれるが、エルフってたくさんおるんやなぁ……くらいにしか思えなかった。道中でロザリー以外のエルフにも会ってないし、実感が薄い。
エビルプリーストがいた世界は大妖精を変化させたものだ!という設定も何がなんだかわからない。助けてあげたら「住んでいるモンスターがいるので世界はこのままにしておきます」みたいなこと言われるし。大妖精がなんでも願いを叶えてくれるって言ってるのに「魔王がいる世界にいけるトラベライトをくれ!」っていうピサロもわかんないよ。
DQ4の勇者ソロも出てくるが、役回りが雑すぎる。ピサロが第一王子ディオロスと戦う時に助太刀にくるが、ピサロを助ける理由が特にない。暴走したディオロスを勇者が倒し「お前(ピサロ)は俺が倒す」みたいなことを言ってどこかにいくが、魔王城の前まで来てたのにどこに行ったんだろう。山奥の村の襲撃はディオロスがピサロを騙ったということにされているが、サントハイムを襲ったのはピサロだ。アリーナが不服そうだった。
ついでに、ディオロスの暴走も意味不明だった。エビルプリーストが進化の秘法を使わせようとするのを、ディオロスは「俺は既に強すぎるから必要ない」みたいなことを言って断る。そんな前フリがあったのでピサロに負けた時に進化の秘法を使うのかと思いきや、手下が「ディオロス様が暴走した!」と言うだけで、どういう状態なのか一切分からなかった。しかも暴走ディオロスは勇者が1発で倒した。
進化の秘法関連でもう1つある。ピサロの父であるランディオル大帝は、副作用のない進化の秘法である「究極進化の秘法」をいつの間にか完成させている。急に出てくる、当然原理の説明もない。なんだったの。
ゲーム性と噛み合わない物語
本作は「モンスターズ」シリーズのナンバリング作品であることと、ドラクエ4のスピンオフ作品であることに一切のシナジーが無い。「魔族の王子とエルフの旅」とサブタイトルがついているが、エルフの役割はピサロの代わりに喋るだけである。うえしゃまなので可愛いが。
ピサロは魔物に攻撃できず、戦闘は全てモンスターズのフォーマットで行われるため、なんかドラマチックなイベントがあってもいつも通り連れているモンスターで戦う。ディオロスに仲間モンスターが全員ふっとばされてピンチ!という状況(どういう状況?)では、今までの旅で会った仲間たちが、ふっとばされたモンスターをかき集めて運んできてくれた。勇者一行の助太刀も、戦闘がモンスターズじゃなかったら何か色々できただろうな。
戦うのはピサロの使役するモンスターだけだが、ロザリーとベネット(後述)はラスボスであるランディオル大帝の前まで一緒にきてくれる。イベントで何か活躍するのかと思いきや、おしゃべりするだけである。戦闘前にランディオル大帝はピサロに再び呪いをかけてくるが、なんとピサロはこれを自力で解く。「冒険で成長していたということか」みたいなコメントをされるが、今のはロザリーの見せ場だっただろ!!
そしてランディオル大帝を倒すと、ピサロの「魔物を攻撃できない呪い」を解き、介錯してくれ!みたいなことを言い出す(?!????)。てか呪い解けたはずなのにクリア後のストーリーでも自分で戦わなかった理由は何?
クリア後のボスでは戦闘前にロザリーとベネットが異空間に飛ばされるが、戦闘には全く影響しない。この二人とパーティを組んで旅をしてきた意味があるはず!活躍してくれるはずだ!と思って最後までストーリーを見たけど結局本当に何もなかった。
新しい魔界に行く時に「トラベライト」というアイテムが必要になるが、最初の1個をエクサアリーナで手に入れる以外は全てストーリー上のイベントで貰える。そのため、モンスター闘技場がエンドールと魔界で2つあるのにクリア後まで放置になってしまって勿体なかった。闘技場で勝って行動範囲を能動的に広げる方がゲーム的に面白いんじゃないかと個人的には思う。
全体的にストーリーがつまらなくて戦闘や育成は面白いんだけど、モンスターズであることがストーリーの足を引っ張っているという歪な状態であった。
ピサロはどうしてそんなに盗みを嫌うんだ?
パッケージにも描かれているベネットというキャラクターが最悪だった。魔族のピサロ、エルフのロザリー、人間のベネットという3種族のパーティで冒険や交流をするというのがコンセプトだろう。天空人も後に出てくるが、世界を滅ぼそうとしているやつしかいない(大丈夫か?)。
ベネットは魔法研究家という設定で、人間界にはない魔法素材を探しに魔界にきているらしいが、その設定は回収されないので忘れていい。こいつはただのコソ泥である。
ベネットが盗んだアイテムでピサロを助けたことを咎められた時に「どうして盗みを嫌うんだ?」と聞き、ピサロは幼少の頃に母から躾けられたエピソードを回想してくれる。「あなたは魔族の子だからこそ、人間らしく正しく生きなければいけません」みたいな亡き母の言いつけを守るピサロ。良い話風だが、ベネットの倫理観が狂っているだけである。
そんな狂人ベネット、突然「人間を滅ぼす!」と言い始めたピサロと喧嘩別れしてしまう。そして次にベネットと会うのが、このゲームでも屈指の問題シーンだ。
人間界でピサロが魔王活動している間に、ロザリーが人間に攫われてしまう。オリジナル版でもあったお馴染みのイベントだ。これがきっかけでピサロは進化の秘法を使うことを決意するんだっけ。
本作ではロザリーが人間に攫われているところをマスタードラゴンが映像付きで見せてくれる。こいつ……脳内に直接NTRビデオレターを!?そして、ピサロがロザリーヒルに駆けつけると「自力で逃げ出してきた」と言うロザリーと「こいつは偽ロザリーだ!」と主張するベネットがいる。
偽ロザリーが言うにはベネットが誘拐を手引きしていたということだが、少し前まで一緒に行動しピサロたちの拠点の構造などをベネットが把握していたのを考えると、かなり説得力がある。倫理観も狂ってるし。
しかし、ここで偽ロザリーを選ぶとバッドエンドルートへ。ベネットが「盗んできた時の砂」を使い、選択の直前まで巻き戻されてしまう。くそ……どこで間違えたんだ?!
特に理由もないのに「人間を信用する」というプロセスを踏ませるためにベネットを選択させ、しかも盗んできた時の砂に救われることで「正しく生きろ」という母の教えまで否定されてしまっている。もしかして、盗みこそが最も人間らしい行動だということなのか?!
ここまできたらクリア後のストーリーもベネットが盗みで解決したら一貫性があって逆に面白いなと思っていたら、そんなことはなかった。
今作とDQ4本編の分岐点って、ピサロがベネットと出会ったことなんだろうか。嫌すぎる。ホイミンがめちゃくちゃ可愛いのに一瞬しか出てこなかったので、ホイミンと一緒に冒険したかったよ。