金のかかった凡ゲー『ファイナルファンタジーXVI』レビュー(ネタバレあり)

 『ファイナルファンタジーXVI』はスクウェア・エニックスが開発、PS5で発売されたアクションRPGである。本作はファイナルファンタジーシリーズの16作目であり、約7年ぶりのナンバリングタイトルとなる。プロデューサーに『ファイナルファンタジーXIV』を立て直した吉田直樹、ディレクターは『ラストレムナント』などの髙井浩が担当。バトルデザイナーとして『デビルメイクライ』シリーズを手掛けた鈴木良太を迎えて制作された。
 メインストーリーのみ追いかけて1周クリアで約30時間。2周目ファイナルファンタジーモードでサブクエストなどの全要素をさらい、プラチナトロフィー取得で77時間だった。

 このレビューはFF14暁月のフィナーレで吉田直樹アンチになったプレイヤーがお送りする。

 本作は「中世ヨーロッパの動乱期にクリスタル(油田)や召喚獣(核兵器)がいたらどうなるか」をテーマにしたダークファンタジーとなっている。プレイヤーは「ヴァリスゼア」というクリスタルの加護を受けし大地を舞台に、ロザリア大公家の第一王子「クライヴ・ロズフィールド」となり、少年期から壮年期に渡る物語を体験する。戦争や奴隷を扱ったシビアなストーリーで、出血や部位欠損などのバイオレンスな表現もどんどん出てくるし、クライヴも脱ぐ。

 戦闘は従来のシリーズとは異なり、本格的なアクションRPGとなっている。プレイヤーは通常攻撃・魔法・召喚獣アクションを使い分けて戦う。回避行動の性能が非常に高く、わりと適当にプレイしても気持ちよく敵を倒せるデザイン。
 通常攻撃が当たったときに魔法ボタンを押すと発動する「マジックバースト」をチュートリアルでやらされた時は「いい年してボタンガチャガチャやりたくないなあ」と思ったが、2周目の終盤になると流石にコツを掴んで許せてきた。マジックバーストのコツは攻撃が当たった瞬間ではなく、剣の振り始めに魔法ボタンを押すことである。
 召喚獣アクションはフィート3種類にアクションをそれぞれ2種類ずつ装備可能。ボタンでフィートを順番に切り替えて使用する。フィートはフェニックスなら瞬間移動、ガルーダなら敵の引き寄せなどの特殊行動をクールタイムなしで使えるコマンド。召喚獣アクションは概ね強力な攻撃技で、MPなどの共通リソースはなくアクションごとにクールタイムがあり、広範囲に大きなダメージを与える「転生の炎」などは長めのクールタイムが設定されている。単体に大ダメージを与えるものや、カウンターを狙うアクションなどそれぞれ個性があり、他のプレイヤーに聞いてみたらそれぞれクリアまで使っていたセッティングが違って面白かった。召喚獣アクションはストーリーの進行度によって解禁されていくのも良い塩梅であった。徐々にゲームに慣れていくことができるし、新しいアクションが手に入ることはストーリーを進めるモチベーションにもなる。

 自分で戦闘の難易度を調整できるサポートアクセサリーも本作の特徴だ。攻撃ボタンを連打するだけで様々なアクションを自動で使う「オートアタック」敵の攻撃を全て自動で避ける「オートドッジ」など、特定のアクションをサポートするアクセサリーを任意で装備することができる。そんなことより敵のHPを減らしてくれ。マジックバーストでガチャガチャやりたくないなと思って一度「オートアタック」を装備してみたが、思ったより効率よく殴らないのと、攻撃ボタンだけ連打しているのが虚無ゲーだった。結局、敵の攻撃が当たる直前スローモーションになる「オートスロー」だけを使い、それなりにアクションしている感を楽しんだ。戦闘が長く感じたが、それは回避系のアクセサリーで緊張感がなくなっていたせいかもしれない。
 サポートアクセサリーの枠は通常のアクセサリーと共通のため「サポートの恩恵を受けていると火力が下がる」など劣等感を刺激する部分もあった。アクセサリーの効果は攻撃力アップ、ポーションの効果アップ、アクションのクールタイム短縮など様々なものがあるが、サポートアクセと経験値(ギル・アビリティポイント)アップアクセで埋まっていて最後まで使うことはなかった。報酬増加系の装備は、使ってお得というより使わないと損に感じてしまう。アクセサリー選択の機会を奪ったスタッフは処刑(ダウン中の敵に接近して攻撃ボタン)して良い。
 アクセサリーの効果は豊富なのに、武器や防具はシンプルに攻撃力や防御力の数値しか変わらないというのも歪だ。シリーズおなじみのラグナロクやアルテマウェポンも他の武器と数字しか違わない。フレイムタンやアイスブランドなどいかにも属性が乗ってそうな武器もあるが、このゲームにはそもそも属性が存在しない。基本的に後から手に入った装備にただ乗り換えていく。武器には攻撃力とウィル(敵のダウンゲージ削りに使う)という2つのステータスが設定されているが、全ての武器で攻撃力とウィルは同じ数値になっている。なんで分けたの?
 このゲームはアクションRPGと銘打っているが、RPG要素が非常にシンプルに簡略化されているのだ。装備は選ぶ余地がなく、敵の弱点属性を覚える必要もない。昔のRPGは属性くらいしか要素がなかった為、その他の要素が増えた現代では要素が整理されているという見方もできる。本作では装備している召喚獣ごとに魔法とマジックバーストが細かく変化しているので、属性に関しては最後まで要素の取捨選択をしていたのかもしれない。また、レベルや武器の更新で攻撃力は上がっていくが、敵のHPが膨大すぎて成長を実感しにくいのもある。そもそも、レベルや装備といった要素が、ストーリー進行に沿った強さにゲーム側から均されているだけなのである。装備やアビリティを工夫して倒すような強敵もいない。本作はアクションであることに胡座をかき、RPGのフリをしているだけという印象を持った。

 ドミナント同士の激突「召喚獣合戦」はこのゲームの目玉である。飛び交う万単位のダメージは、その辺の野盗とかの戦いとは桁が違うことをゲーム的に上手く表現している。召喚獣合戦は基本的にはクライヴに呼び降ろしたイフリートを動かす肉弾戦となり、殴る・魔法・回避のシンプルな戦いをダイナミックに行う、ゲーム性よりも演出に振り切ったイベント戦闘である。殴り合いの最中に「攻撃・回避・ボタン連打」の3つのうちいずれかのQTE(クイックタイムイベント)が入ることもある。QTEはゲーム性の墓場だと思っていたが、戦闘以外のシーンでは発生せず「攻撃する・避ける・迫り合い」の場面にだけ発生するのは操作がゲーム体験と結びついている。
 ゲーム的にやることはシンプルだが、演出は非常に見応えがある。イフリートより更に超巨大なタイタンとの戦いや、壮大なフィールドで戦うバハムートはやりすぎで笑っちゃうくらいであった。初見の召喚獣合戦は確実に楽しめると太鼓判を押しても良い。
 ただ、召喚獣合戦自体は非常に素晴らしい要素なのだが、ゲーム全体から俯瞰すると問題点もある。召喚獣合戦の回数がそう多くないこと、バハムート戦をピークにそれ以降盛り上がらないことだ。イフリート、フェニックス、シヴァ、ガルーダ、タイタン、ラムウ、バハムート、オーディンと召喚獣の名前を並べてみると結構な数が存在しているが、実はこの中で召喚獣合戦をするのは半数ほど。30時間以上のゲーム中における割合は意外に少ない。次に、この物語はバハムート戦を中盤のピークとして終盤に入っていくが、終盤~ラスボスまで召喚獣合戦は存在しない。そして、ラスボスもバハムート戦ほど盛り上がらず、完全に力尽きてしまっている。召喚獣合戦の制作コストが非常に高いことは想像できるが、そんなことをプレイヤーに考慮させるべきではない。

 フィールドはオープンワールドではなく、大きめのフィールドが4つと、ストーリーで訪れる1本道のダンジョンが複数あり、ワールドマップから選択して移動するタイプ。大きめのフィールドはストーリー進行で徐々に行ける場所が増えるため、探索的な面白さは特に無い。吉田さんはミニマップがあると常にそれを見ながら移動してしまうためストーリーへの没入感が落ちるとし、移動中のミニマップ機能は不採用となっている。が、どうせタッチパッドで都度エリアマップを開くことになるため、どちらの方が没入感が落ちるかはわかったもんじゃない。没入感もアクセサリーで調整できるようにすればよかったんじゃないすかね。ダンジョンではミニマップがない代わりにL3を押し込むとトルガルが道案内してくれる。トルガルが仲間になって最初のダンジョンで早速逆走したのでもうずっと案内してもらっていた。L3押し込みとミニマップ、どちらの方が(ry

 サブクエストはモンスターを倒したりアイテムを回収してくるなどの簡単な内容で、何か考えたり工夫する必要はなく、緑のアイコンを追いかけていれば全てクリアできる。FF16におけるサブクエストはユニークな攻略を遊んでもらうものではなく、サイドストーリーを読ませるためのもの。「ストーリーが報酬のおつかい」なのである。メインストーリーでは語られない世界観を知ることができたり、キャラクターの深掘りがフルボイスで行われる。フルボイスどころか、ちょっとしたモブまで信じられないレベルで細かく表情の演技をするのはこのゲームの凄いところである。ただ、リップシンクも表情の演技に含まれているため、全て英語基準になっているのは国内ゲームとしては残念なところだった。
 サイドストーリーの内容に関しては、各サブキャラクターを深堀りするものはともかく、終盤の拠点クエスト(前後編のもの)は幼稚すぎる。ベアラー(奴隷階級)との確執を描く話が多いが、やや展開が雑。クライヴや協力者たちがわだかまりを解いていくが、そもそもエンディング後には魔法やベアラーは存在しない世界になる模様。このエンディングで本当に良かった?

 メインストーリーは海外ドラマを意識しているらしく、吉田さんがスタッフに『ゲーム・オブ・スローンズ』を見せていたという話もある。僕は海外ドラマには明るくないが、ミドはサブリナとかで見たことあるなと思った。
 プロローグでクライヴは弟を失い復讐を誓う。が、復讐に関してはわりと早期に片がつき、なんだかんだでシドの目的の「マザークリスタルの破壊」に舵を取られる。事前のPVとかではもっとガンガンに復讐する感じだったような気がするのだが。
 この「マザークリスタルの破壊」という目的が、世界観上で説得力がないうえに、ゲーム的なアクセントも薄い。シドは、大地からエーテルを吸い上げているマザークリスタルを破壊すれば、エーテルの枯渇した地域「黒の一帯」の広がりを止められるとしている。しかし、1個破壊し……2個破壊しても状況は一向に好転しない。それでもなんか、壊し始めちゃったから全部壊してみるか!くらいのノリでクライヴはマザークリスタルを破壊しにいく。何も考えてないのか?ゲーム的なアクセントが薄いというのは「今からマザークリスタルを破壊します!」的な儀式がプレイヤーに委ねられず、気付いたら破壊されているケースが多いこと。マザークリスタルを破壊してもクライヴの能力アップや新規スキルなどゲームシステム的にメリットがないことが挙げられる。クライヴほどのモチベーションをプレイヤーは感じていないはずだ(クライヴもモチベーションあったか怪しい)。
 吉田さん曰く「ストーリーに自信あり」ということだったので期待していなかったが、特に期待を逆に裏切ることもなく、大したストーリーではなかった。中盤以降になってもチマチマとお使いして関所を通ったり、氏が表現していた「ジェットコースターのような体験」の上りの部分を丁寧にやらされる。クライヴを始めとするドミナントがデカい力を持ちすぎていて、政治的な話に身が入らない。クライヴや敵NPCが命の安い世界とは思えんような行動をする。灰大陸に向かう終盤以降、海外ドラマを投げ捨てて急にファイナルファンタジーになる。ラスボスはFF14の古代人のできそこないのようだ。ラスボス戦は単体で見ると「処刑の時間だ!」という感じで愉快だが、ゲーム全体で俯瞰すると変。そして、サブストーリーをやっているほど受け入れがたい結末。
 そもそもこのエンディング、クライヴの掲げた「人が人として生きていける世界」になっているとは限らなくない?どうせ魔法やベアラーがなくなっても、肌の色が違うやつとかが奴隷になったりしてるだけだよ。それならせめて、クライヴをはじめとしたゲームの登場人物が報われている場面が描かれている方がマシ。テーマがデカすぎて全く響かなかった。

 ゲーム開発の規模が大きくなった影響で、ストーリーの責任が重すぎる部分はあると感じる。FF16のようなAAA級ゲームのシナリオを書くプレッシャーは想像できない。歌モノ楽曲が歌詞だけで評価されないように、ゲームのシナリオも単体で評価するべきではなく、ゲーム体験としてトータルで評価するべきだろう。ちなみに、その点で考えてもFF16のシナリオは30点くらいである。ゲームであることを全く生かしていない。当時酷評されていたFF15の方がまだゲームプレイがシナリオ体験に返ってくる作りになっている。

 結局、吉田さんは我々に何を体験させたかったのか。リアルな表現になることはゲームにとってメリットなのか?FF16を遊んで、果たしてゲームの進化とはこの方向性でいいのかと考えさせられた。本作のグラフィックは確かにすごいし、カットシーンのクオリティは国内の他のゲームとは比べ物にならない。しかし「遊び」の部分に関してはコアゲーマーをターゲットにしていないのか、作り込みが非常に浅い。とにかくクライヴの物語を体験させるためのゲームなのだろう。ゲーム性の部分でも業界を牽引してきたファイナルファンタジーの最新作がこれを提示してきたのは残念だった。

 『ファイナルファンタジーXVI』は、素晴らしいグラフィック、爽快感のあるアクション、大迫力な召喚獣合戦などは非常に高水準であった。しかし、幅広いユーザーをターゲットとしたゲーム性の浅さや、ストーリーの完成度の低さから、ゲームとしては凡庸であると言わざるを得ない。