『ファイアーエムブレム エンゲージ』はインテリジェントシステムズが開発、任天堂が発売したシミュレーションRPGである。コーエーが制作を担当したガチ戦記物の前作『ファイアーエムブレム 風花雪月』からガラッと変わり、ファンタジー寄りの作品となっている。ノーマル・カジュアルでプレイしてクリアに50時間。ストーリーの分岐は存在しない。
目次
ゲーム概要
プレイヤーは1000年の眠りから覚めた「神竜」となり、邪竜の復活を阻止するため、エレオス大陸の4つの国を回り12の「紋章士の指輪」を集める。キャラクターに指輪を装備し、紋章士の力を借りる「エンゲージ」システムで戦いが大きく変わるのが特徴。シナリオ→戦闘→シナリオ→拠点に帰還を1セットとした章仕立てでゲームが進行し、章の合間には外伝や遭遇戦で本編以外の戦闘を行うことも可能。難易度はノーマル-ハード-ルナティックの3段階、ゲームモードは死亡したキャラクターが復活しないクラシックと、次のマップから再び使えるカジュアルから選択できる。
戦闘
マス目上のフィールドでユニットを移動させ、攻撃したり敵を待ち受けたりし、全員の行動が終わったら敵のターンになるタイプ。兵種ごとに移動の特性や武器の射程が違ったり、移動先の地形によって戦闘に有利な効果を受けたりする。こちらから攻撃する時に効果のあるスキルを持っていない限り、反撃も同じ威力で攻撃するため、こちらが有利な地形に誘い込む「待ち」がシリーズ共通して鉄板のプレイングとなっている。
「待ち」に一石を投じる新システム
前作『風花雪月』でも、マップギミックや「計略」で待ち戦術一辺倒にならない工夫を感じた。今作では「エンゲージ」や「ブレイク」システムの導入により「攻め」を強化することで攻略にアクセントを与えている。
「エンゲージ」は装備した指輪に宿る「紋章士」の力を一定ターン借りるコマンド。「紋章士」はファイアーエムブレムシリーズの主人公(および、主人公格のキャラクター)から選出されており、それぞれ特徴的な能力を持っている。シグルドだったら移動力が著しく上がり、セリカは遠くまでワープして攻撃、リンは射程10マスの超距離攻撃を所持している(通常の射程は長くて3マス)。とにかく派手なことができるようになるので、わかりやすく強化されて楽しい。紋章士の指輪は装備品なので、どのキャラに持たせるか自由なのも面白いところだ。徹底的に相性を考えて配備しても良いし、活躍させたいキャラを贔屓しても良い。エンゲージすると、兵種に関わらず紋章士が持つ武器を使えるようになるのも戦略が広がるポイントだ。
今作では武器種による「3すくみ」が復活している(風花雪月は、剣兵種は斧殺しを覚えるみたいな感じで、武器自体に相性はなかった)。剣なら斧など有利な武器に攻撃すると命中や回避に補正がかかるだけでなく「ブレイク」状態にすることができるようになった。ブレイク状態になった相手は反撃ができないため、しっかり相性を意識することで格段に攻めやすくなっている。
「戦闘スタイル」も今作初登場だ(多分)。「連携」なら射程内の味方の攻撃に合わせて追撃、「隠密」なら地形効果が倍増など、今までのFEにありそうでなかった兵種の特徴を強化する要素である。「連携」は命中率が80%固定、ダメージが最大HPの10%固定で敵も使ってくるため、単騎駆けすると難易度ノーマルでも危うい。「隠密」の恩恵を受けたシーフにはほとんど攻撃が当たらなくなるが、「魔道」スタイルで無効化できるなどのメリハリも面白い。
「エンゲージ」システムの導入で強化されたのは味方ばかりではなく、敵も使ってくることがある。特にクラシックでプレイしている場合は、敵の「エンゲージ技」で犠牲者を出さずクリアするのに苦心しそうであった。また味方の強力なエンゲージ技に合わせてか、ボスユニットは軒並み2回以上倒さないといけなくなっている。そしてFEのボスといえば定位置から動かないイメージが強いが、今作では紋章士とエンゲージして大胆に攻め込んでくる。更にボスが動くのに合わせて大量の援軍が追加されるなど、常に緊張感を持った攻略を要求する様々な工夫がされている。
育成
今作の育成要素は戦闘(敵を攻撃・撃破)で入る経験値でのレベルアップ、同じく戦闘で手に入るSPを消費して紋章士スキルの獲得、お金や素材を消費して武器の強化などがある。仲間キャラや紋章士と支援値を上げるのも育成要素の1つとも言えるだろう。レベルアップはわかりやすくステータスが上がる。キャラクターによってステータスの伸び方に個性があり、適した兵種や紋章士などの運用を考えるのが楽しい。ひたすら力が伸びて1発がデカい筋肉アーチャーとして完成していくエーティエのステータスが美しく、額に入れて飾りたくなった。
今作のスキルは兵種ではなく紋章士から取得する。セットできる数は最大で2つと少なめだが、行動後に再び移動ができる「再移動」やHP1で攻撃を耐える「ふんばり」など、取得すると戦闘に大きな影響を与えるものもあるため軽視できない。ゲームクリアまでのSP取得量がやや少ないため、初回プレイでは計画を立て難いのがネックか。
今作では武器に使用回数が設定されていない。その分「武器強化」のコストが強い武器ほど高めに設定されている傾向があった(多分)。紋章士の力を武器に込める「刻印」という要素もあるが、攻撃力が上がる代わりに重さが大きく増えたり、攻撃力が下がる刻印が多かったりとデメリットが大きく使いにくい感じだった。後から手に入った武器に付け替えたい時、現在刻印されている武器を確認しにくいというUIの問題もある。
拠点
章の合間に帰還する拠点「ソラネル」には様々なアクティビティが揃っている。ちょっと多すぎるくらいだ。食事で次の戦闘で能力アップ+指定したキャラとの支援値アップ、店で武器や道具の購入、牧場や果樹園を散策してアイテムの回収、謎の生き物を撫で回して絆のかけらの回収、筋肉体操・釣り・ドラゴンシューターなどのミニゲーム、鍛錬の間で模擬戦、紋章士の間でスキルの取得、仲間との支援会話・紋章士との絆会話などを一通りこなしてから次の章に出撃することになる。これだけあると流石に1つ2つは忘れる。拠点の散策で回収できるアイテムは食材中心だったり、絆のかけらもあまり使わないので、中盤以降は飯!鍛錬!出撃!くらいにショートカットしていた。
絆のかけらは「紋章士との鍛錬」と「シリーズキャラ指輪ガチャ」みたいなやつに使うが、ストーリー終盤になると紋章士の指輪数が出撃できるユニットより多くなるため、雑指輪を使う機会はあまりない。1キャラに4段階のレアリティがあり、同じ指輪合成でレアリティを上げられ、最上ランクになるとキャラ固有のスキルも発動する。が、エンゲージはできないし流石に紋章士よりは強くないので、多分コレクション要素。
慢性的な金欠
装備やアイテムの購入、武器の強化、国への投資など、お金の使い道が多いわりに入手方法が少ない。遭遇戦で稼ぐこともできるが、1回の戦闘で手に入る金額があまりにも小さくて僕はちょっと稼ごうと思えなかった。アンナさんの強奪(強奪だったか?)をうまく使えばお小遣い程度に稼ぎが増えるが、それでも面倒さが勝る。ストーリー上で大きな収入が何度か入るので、基本的にはそのリソースを戦略的に分配するゲームデザインだと考えた方が良い。
やたらと連打を要求するミニゲーム
「筋肉体操」には腕立て・腹筋・スクワットの3種類があり、出撃前に行うと次の戦闘で主人公の能力が少し上がる。腕立ては目押しゲー、見た目よりかなり早めにボタンを押す必要があり、FF9の縄跳びみたいなイメージ。腹筋は連打ゲー、疲れる。スクワットは音ゲー……と見せかけて、謎のタイミングでスティックを入力するゲーム。矢印が降ってくるので一瞬音ゲーかと思うが、音楽とは一切合ってない。
「釣り」は投げる場所を選んで、ヒットしたら魚の動く方向に合わせてスティックを倒し、手前まできたら……ボタンを連打する。投げる場所は水の波紋の大きさで選ぶらしいが全然わからなかったし、大物を釣り上げるにはスティック→連打のサイクルを5回くらい繰り返さないといけないのが大変辛かった。
「ドラゴンシューター」は決まったルートを飛ぶドラゴンに乗りながら的を撃つゲーム。FF7のシューティングコースターみたいな感じ。ボタン押しっぱなしでもショットが発射されるが、実は連打すると凄まじく発射速度が上がる連打ゲーである。いちいち例えが古いって?
釣り・ドラゴンシューターは絆のかけらや食材が手に入るだけなので(やらなくても)良いが、筋肉体操は次の出撃時に主人公の能力が上がるため、ルナティックなどの高難易度でプレイしている人ほど真剣に筋肉体操する必要があるのか……と複雑な気持ちになった。難易度ノーマルではそこまで能力値をシビアに求められないので、労力に見合わなかった。
キャラクター
今作のキャラクターデザインはVtuberのママなどで知られる「Mika Pikazo」さんが担当している。高校卒業後にブラジルに渡航したという経歴が謎すぎる。主人公を始めとした色鮮やかなデザインが特徴で、3Dモデルの完成度も高い。起用の目的は若年層のユーザー増加を見込んでのことだろう。オルテンシア可愛い~!
支援会話
キャラクターだけでなく、紋章士との絆会話も全員分あるため、非常に種類が多い。ただし、内容は1つの会話を3分割したようなものだったり、絆会話は一言だったりと希釈されている。今作は仲間同士のカップリングは存在しないが、主人公はパートナーを選ぶことができる。
見た目装備は拠点のみ反映だが、全員にメガネを装着できるのが+10000点だった。
ストーリー
覚醒・ifのライター続投ということもあり、ファンから露骨に避けられているが、メインキャラにベテラン声優がキャスティングされているため案外楽しめた。ムービーシーンのクオリティも高い。話はifほどめちゃくちゃではなかったかな……。
ストーリーの問題点
非常によく作り込まれていた風花雪月と比べて、世界観が薄く、雑に作られているように感じる。例えば風花雪月では紋章一つとっても、その成り立ちと貴族制度が社会に根ざしている理由まで作り込まれていた。エンゲージでは邪竜ソンブルが王の血を求めるくだりがあるが、王族がどういう存在なのかそもそも謎である。国家間の関係もふわっとしていて、エレオス大陸という今作の舞台が4国で完結しているため広がりもない。
急展開・トンデモ展開すぎるという点も挙げられる。プロットを淡々と消化するようにストーリーが進んでいくが、これはおそらく今作のフォーマットの問題もある。章の最初と最後の2回しかイベントシーンを入れる機会がないため、急展開になっているのだと思われる。これに関しては、ゲームのフォーマットに合ったシナリオを書けという話でもある。トンデモ展開は病気なので治らないと思う。ライターを変えろ。
セリフで全て語ってしまうのもストーリーが陳腐化してしまう原因の1つだろう。特に、ラスボスが最終決戦前に突然自分語りを始めるのは非常に寒かった。敵キャラの身の上話自体は、ワンピースや鬼滅の刃でも頻出し、一般的に受け入れられている現代の流行り要素だと考えられる。演出次第では面白いかもしれないが、敵キャラが勝手にペラペラ語り始めるのは雑な入れ方ではないだろうか。考えた設定を捨てるのが勿体ないから詰め込んだ感がある。
仲間がストーリーにほとんど関わってこないのも味気なかった。ユニットが死んだら退場してしまうゲームなので仕方ないかもしれないが、メインキャラクターの王族ですら「神竜様」に賛同するばかりである。
覚醒やifで見たような展開が使い回されているのも問題だ。特に、物語の核心が覚醒の焼き直しなのが気になった。
今作は子供向けのFE?
風花雪月がやや大人向けだったのに対して、今作は低年齢層がターゲットではないかと言われている。カラフルなキャラクターデザイン、ハッピーエンドの物語、わかりやすい必殺技。これからの世代にファイアーエムブレムを遊んでもらうためのシミュレーションRPGの導入と思えば、悪くない内容だったのではないだろうか。考えてみれば、ミニゲームでやたら連打を求められるのも元気が有り余ったキッズ向けだし、全ての仲間キャラクターに馬糞をプレゼントできるのもキッズしか喜ばないだろ何だこの要素は。
総評:良作
ストーリーは幼稚だが、戦闘が今までに遊んだFEで一番面白い。ノーマルだけでは勿体ないので、追加DLCで紋章士が増えたりしたタイミングでハードも遊んでみたいと思った。ストーリー以外に物足りなかった点では、1本道なためか周回要素がなく、クリア後にすることが少ない。今後はそのあたりの遊びを強化したFEにも期待したい。