※本記事は後半にストーリーのネタバレを含みます。
『じんるいのみなさまへ』は、アクワイアが開発し、日本一ソフトウェアが発売したガールズアドベンチャーである。友達同士で秋葉原に観光に来たはずの女の子たちが、廃墟と化した秋葉原で“ゆる~いサバイバル生活”を送る。
目次
秋葉原に泊まってみた!

ホテルで目覚めた主人公のきょうか(榛東京椛)たちは、先に起きていた3人で秋葉原の探索へ向かう。どう見ても滅亡しているのに、会話のテンションは旅行そのもので、観光が成立してしまっている。しかも、秋葉原の外は海で、他の人間は見当たらない。ほどなくして残りのメンバーも目覚め、当面の目標は食料確保に決まる。
ただ、拠点のホテルだけは電気と水が通っており、お湯まで出る。この世界は、サバイバル百合を観察するために百合星人が用意した箱庭なのか?!

ブルーアーカイブのコーナーはあっちよ!
寝坊組も起こした!

食料調達の章は釣りから始まって、どんぐり!野菜!肉!はちみつ!と、とにかく飯の話が続く。なんと全体の半分にあたる5章まで、ほぼ飯の話しかしない。
ただし本作は「ガールズアドベンチャー」であり、生活の会話でキャラクターを立てていくタイプの作品だ。そう考えると、この飯パートこそゲームの本質と言える。
きょうかは少し抜けているところもあるが楽天的で、パーティの空気を明るく保っている。いさな(少弐勇魚)はみんなのお母さん枠で、生活の段取りから料理までをこなす。えりな(菓子永里那)はゲーマーという設定で、独自の視点と面白い声で会話を盛り上げる。ゆゆこ(邑楽幽々子)は天才キャラ枠で、秋葉原にちなんだ工作を担う。かずみ(小松和海)は体力自慢で、農業を担当しつつ、たまにキャンプ知識を披露する。
そして、この生活パートで重要なのは、かずみ→いさな、ゆゆこ→えりなというカップリングが成立することだ。プレイ中、僕は「えりな、そこでチューだろ!」などの野次を飛ばしていた。百合星人は僕のことだった?!
大ピンチ!?そーでもないって

ここまで飯中心に話が進んできたのにも、実は理由がある。きょうかたちが拠点にしているホテルは電気や水が通っているだけでなく、カップ麺を自動で供給するマシンまで置かれている。そしてそのマシンには、残数が表示されていたからだ。
ある日、きょうかがシャワーを浴びていると、お湯が突然出なくなってしまう。原因は、ボイラーに使っていた石炭の枯渇だった。カップ麺のカウントダウンは食料の話への誘導だけでなく、電気や水も無限ではない、という前振りだったのだ。
お湯を復旧したと思ったら、次は水が出なくなり、さらに電気も止まってしまう。この章は、次々に止まっていくライフラインを持続可能な方法でなんとか復旧していくパートだった。ようやくこのゲームにサバイバル感が出てきた。
記念写真のわたしは
ライフラインを復旧し足元を固めたきょうかたちは、秋葉原をもう一度歩き直すことにする。今度は食料のための採取でも、必要に迫られた行き当たりばったりでもない。「ポジティブ探索」をする段階に入ったと言える。特にインフラ修復の中心人物であったゆゆこは、街の見え方そのものが変わっている。

探索の目標は、施錠された建物だ。入る手段を探し、ピッキングツールを完成させ、あちこちの扉を開けていく。そして辿り着いたのが、ロッカーだった。ロッカーを開けると、日記や写真、千羽鶴といった、人類の「生きた証」が入っていた。日記を皮切りに、物語は百合SFとしての核心に迫っていく。
そして、もう一つ。ゆゆこが、今見えている星空が「自分の知っている星空と違う」ことに気づく。奇妙な世界観、ここまできてまだ旅行のつもりでいるきょうか、切り取られたように孤立した秋葉原――このあたりで僕は、「きょうかたちは地球に似た星からの旅行パッケージとして秋葉原を訪れているのでは?」などと予想していた。
ゲームシステム概要

ストーリーの核心(ネタバレ)に入る前に、本作のゲームシステムに触れておく。
基本は秋葉原の各スポットを歩いて回り、会話イベントを見てストーリーを進めていくテキストアドベンチャーとなる。探索には制限時間が設定されているが、移動では時間が進まず、採取などの「行動」をしたときに一定値を消費していく設計だ。急かされる感覚がないのは好印象で、会話を読みながらじっくり歩くテンポに合っている。

拠点となるホテルではアイテムを制作したり、探索時にバフが乗る料理を作ることができる。料理は「作った料理ごとに雑談が発生する」のも良い。生活要素に紐づいたキャラクターの掛け合いが無数に用意されている。アイテム周りのテキストも「キャラクターのコメント」という体裁になっており、拾い物ひとつにも本作の味が染み渡っている。
探索時には5人のメンバーから3人を選んでパーティを組む。探索中は定期的に道中会話が表示され、組み合わせによって内容が変わる。テキストを限界まで増やす実験でもしてる?
百合ゲーのゲーム抜き

本作はストーリーとキャラクターの掛け合いが面白い。一方でゲーム性は間延びしやすく、プレイヤーの行動や選択が手応えとして返ってこない場面が多い。
まず導線が不親切だ。ミニマップがないため、目的地を確認するために何度もマップを開くことになる。しかも、リリース当初はマップに現在地すら表示されなかったらしい。確かにそれはサバイバル感が増しそうではあるが、このゲームは食料が尽きても採取の時間消費が倍になる程度で、インフラ問題はストーリー上で解決され、日数制限もない。つまり、サバイバル感を演出したところで、肝心のサバイバルは成立していないのだ。
移動速度も厳しいものがある。歩きはかなりリアル寄りで、ダッシュも十分な速度とは言いにくい。秋葉原はそれなりに広く作り込まれているが、実際に訪れるポイントは限られており、探索というより「決まった場所を往復させられる」感覚が強い。せめてホテルへのファストトラベルくらいは欲しかった。一応、探索時間を使い切れば拠点へ戻れる(いわゆるデスルーラ)が、採取したポイントは次の日まで回復しないうえ数が少ないため、狙って出すのは難しい。
ストーリーは基本的に「指定された場所に行く」ことで進行する。だが、複数の目標が同時に表示されている場合、実はその中で順番があり、順番通りに行かないと次のイベントは発生しない。そのため、二度手間になることがよくあった。加えて、自由探索中の採取で既に手に入れているアイテムでも、ストーリー上では「改めて発見」し直さないといけない。プレイヤーが先回りをしても得をしないため、ゲームとしての手応えが薄い。
釣り、畑、罠といった要素は料理に繋がる。しかし、そもそも料理バフの意味が薄い。効果は採取時間短縮や罠の採取量増加など採取効率を上げるものだが、その採取は結局料理にしか繋がらない。循環が閉じていて成長要素もないため、選択の意味が生まれにくい。採取で見つかって料理にも使わないものはさらに酷く、罠の材料など一部を除けば、ほぼ用途のないフレーバーである(!)。硬貨も色々拾えるが、100円をロッカーに使えるくらいで、1円・10円・外国硬貨などは基本的にフレーバー止まりである(もしかして、ハズレ枠か?)。

それなりに作り込まれた秋葉原の交差点。
空を見ろ、星を見ろ
ここから先は物語の核心に触れるため、未プレイの方は注意。
ロッカーに残された人類の「生きた証」、整いすぎたホテル、星空の違和感。積み上げられた奇妙さの答え合わせは、ホテルの呼び出し音から始まる。
呼び出し音に導かれ、地下の非常電源を動かすとホテルのメインコンピューターが起動し、秋葉原の「箱庭」めいた状況の説明が始まる。人類は隕石由来のウイルスで崩壊し、非感染者は宇宙へ脱出、感染者のうち5000名ほどはコールドスリープで治療された。きょうかたちは500年後に目覚めた「治療完了者」であり、ワクチン研究の検体でもあった。ホテルが最低限「生活できる形」で残されていたのも、検体が目覚めた後に活動できるようにするためだったのだ。評論系ばかりが置いてある同人ショップも?!

状況の説明に加えて、きょうかたちの家族からのメッセージも再生される。ビデオメッセージという体裁になっており、今生の別れになる感情が文章だけでも伝わってきた(ボイスがあったらなおよかった)。
星空の違和感は、宇宙人類が運用する「星のように見える衛星」だったと判明する。ゆゆこを中心に宇宙側との交信へ話が進み、2週間後に先遣隊が到達する流れになる。
しかし、宇宙人類と合流すれば、彼女たちはそれぞれ遠い親戚のような相手に引き取られ、今の仲間とは離れ離れになるかもしれない。そうした未来を嫌ったきょうかたちは、先遣隊の接近を前に秋葉原から脱出する選択をする。
DLC:6人目
クリア後はデータを引き継いで2周目を始めることができる。とはいえ、引き継げる内容は……ロッカーの開封状況のみ? 畑のレア素材(醤油とか味噌)くらいは引き継いでほしいところだった。

2周目を開始すると、「スハーヤがいることでルート変化が起こる」というTIPSが表示される。スハーヤは、コールドスリープのポッドから起こされることがなかった「6人目」である。ストーリーが気に入っていたのでそのまま2周目も進めてみたが、しばらくプレイしても一向に変化がない。そこで一旦、どうやってスハーヤを起こすのか一応ネットで調べてみたところ――なんと、スハーヤはDLCを購入しないと起きないのであった。そういうことはTIPSにもちゃんと書いて!
スハーヤ(朱香・CyxaR)はロシア人とのハーフで、飛び級で大学生になった12歳。どうやらコールドスリープ前にきょうかと繋がりがあったらしく、DLCでようやく百合カップリングが出揃った、という位置づけになる。
ただし、周回体験は快適とは言いにくい。本作には既読スキップがあるのだが、スハーヤが一言喋るだけで未読メッセージ扱いになり、ほぼ見たことのある会話をもう一度読むことになる。会話の内容が大きく変わるならそれでもいいのだが、スハーヤの一言に誰も反応しない場面もあるし、立ち絵が表示されているだけで別の会話と判定されていそうなシーンすらある。シャトルランだけでも辛いのに、同じ話をじっくり2度読まされることになるとは。

スハーヤが本格的に活躍し始めるのは、主にインフラ関係のパートに入ってからだ。ゆゆこよりスマートに問題を解決していき、電気の問題なども先回りして対応してしまう。さらにこのルートでは、スハーヤの活躍によって宇宙人類との音声通話まで行けてしまう。
このルートで明かされる宇宙側の状況は、本編とはかなり違う。宇宙移民は衰退しており、地球に戻る力も失っていた。きょうかたちは宇宙移民と交渉し、秋葉原の自治権を得て、このルートは完結する。
百合SF的な見どころについて(重要)

DLCのストーリーでは、作中でずっと感じていた違和感が「刷り込み」によるものだったことが判明する。どう見ても秋葉原が滅亡しているのに会話の緊張感が薄く、観光が成立してしまっていたのは、そう思い込ませることで生存確率を上げていたのである。
500年後には家族はもういない。目覚めた直後に家族の喪失を認識させれば、精神に悪い影響を与えるだろう。だから家族の記憶は曖昧にされる。さらに、同じ場所で起こされた人間同士が不和になれば、生活どころではない。そこで「このメンバーは友達だ」と刷り込む。同じ場所で目覚めた者同士が協力して生活できるよう、お膳立てされていたのだ。刷り込みが極限状態で人を動かすために、ポジティブな運用として描かれているのが面白い。
そしてこの刷り込みは、サバイバル生活を成立させるためだけでなく、「500年の断絶」とも関係している。本作では、宇宙へ脱出した人類が数百年にわたる宇宙生活のなかで、技術や知識だけでなく、記録、生活様式、さらには感情に至るまで――「人間を人間たらしめる要素」そのものを失ってしまうことを危惧していた、と明言される。
この危機感がある以上、目覚めた側に残すべきものは、生存のノウハウだけでは足りない。人間関係の距離感や、友達として振る舞う作法のような「関係性の文化」まで含めて、未来へ持ち越す必要がある。百合を究極的にSFとして解釈しすぎでは?

スハーヤの家族からのメッセージを始めとした一連のやりとりも興味深い。スハーヤへのメッセージは、彼女が大事にしていた万年筆を壊してしまったことへの妹からの謝罪である。実は万年筆が壊れたというのは妹の勘違いで、万年筆そのものは無事だったらしい。だが、500年越しの謝罪に対して、スハーヤが「気にしなくていい」と返してやることはできない。
この「返せなさ」は、きょうかにも別の形で刺さっていた。冷凍睡眠に入る直前、きょうかとスハーヤのあいだには小さなすれ違いがあったらしい。内容は作中ではっきりとは明かされない。ただ、きょうかは謝れないまま眠りにつき、500年間、無意識のうちに「謝れなかった」ことに苛まれていた。だから1周目で、きょうかがスハーヤのポッドを「なんとなく開けたくない」と思っていたのだ。
DLCで描かれる二人の関係は、すれ違いを綺麗に解決するというより、引っかかりを残したまま、それでも一緒にいると安心する、という着地に寄っている。ここで重要なのは、きょうかが「何に謝りたかったか」を思い出して整合を取ることではない。謝れなかった時間そのものを抱えたまま、スハーヤの隣に立ち直すことだ。
DLCは、きょうかの痛みを綺麗に清算してくれるのではなく、痛みを抱えたままでも関係を結び直せる、という歩み寄りをきょうかに選択させるものだと思う。この選択に、僕はきょうかの主人公的な強さを感じた。主人公の強さとは、問題を解く力に限らない。解けない問題を抱えたまま、それでも人と一緒にいられる力である。
総評

『じんるいのみなさまへ』は、ゲームというより「フルボイスでわちゃわちゃする百合会話」を浴びる作品だった。公式でも「ガールズアドベンチャー」を名乗っている通り、メインはゲーム性より会話と関係性にある。会話量がとにかく多く、声優の演技にも違和感がない。全員ほぼ知らない声優だからこそ、先入観なしに“キャラクターの声”として受け取れた面もある(ななひらさんの歌は知っているが)。
百合の温度感もちょうどよい。露骨にえっちな方向へ寄りすぎず、湿っぽくもなりすぎないのに、ちゃんと結婚する。さらに終盤は百合SFとしての完成度も高く、都合の良い設定に「ミルウォーキー・プロトコル」など実在する知識を混ぜて“それっぽく”納得させるバランス感覚がうまい。
一方で、ゲーム性はオワっている。移動は5倍くらい速くしてほしい。採取や料理も手応えが薄く、存在意義を感じにくい。キャラクター面では、かずみの体育会系ノリが少し合わなかった。文化系のゆゆこやスハーヤへの絡み方が、冗談として流せないリアルなウザさがある。
おすすめできるのは百合SFが好きな人。気に入った人はDLC込みで遊ぶと満足度が上がるのでおすすめだ。逆におすすめできないのは、「ゲームをプレイしたい人」である。
GOOD
- 圧倒的な会話量
- ちょうど良い百合
- SFとしても面白い
BAD
- ゲームとしてはかなり厳しい